真言宗の開祖、弘法大師空海様が説く瞋恚、怒りについてのご法話

真言宗の開祖、弘法大師空海様(774年~835年)は自身の晩年の著作、『秘密曼荼羅十住心論』において瞋恚、怒りについての因果応報について次のようにお説きになられている。

「また、貪欲は意に適わざるによるが故に、すなわち憤怒して瞋恚を起こす事あり。

今身にもし瞋恚(しんい)多き者は死してすなわちまさに泥犁地獄(ないりじごく)に堕し、歴劫(りゃくこう)の中において、つぶさに衆苦を受くべし。

受苦すでにおわって畜生の中に堕し、毒蛇蚖蝮虎豹豺狼となる。

(蛇=ヘビ、蚖=イモリ、蝮=マムシ、虎=トラ、豹=ヒョウ、豺=サイ、ヤマイヌ、狼=オオカミ)

この中にありて、無量に生死す。

本因縁をもって、もし微善(みぜん)に遭うて、たまたま人身(人間)に復すれば、また、瞋恚多く、面貌醜悪にして人に憎悪せらる。

ただ親友とともならざるのみにあらず、実にはまた眼に見んことをも喜ばざるなり。

まさに知るべし、憤恚は瞋悩(しんのう)によって生ずることを。

故に、『地持論』にいわく、瞋恚の罪もまた衆生をして三悪道に堕せしむ。

もし人中に生ずれば二種の果報を得。

一には常に一切のためにその長短を求められ、二には常に衆人のために悩害せらる。と。

何が故にか瞋悩は地獄に堕するや。

この瞋悩は恚害(いがい)して苦悩するによるが故に、地獄の苦を受く。

何が故にか瞋悩は出でて畜生となるや。

この瞋悩は仁恕(じんじょ)すること能わざるによりて、ゆえに獄を出でて畜生の身を受く。

(仁恕=情け深く、思いやりがあること、相手を憐れんで、罪を許すこと)

何が故か瞋悩はまた餓鬼となるや。

この瞋悩は慳心(けんしん)より起こるによりて、慳心の罪の故にまた餓鬼となる。

(慳心=ケチな心)

何が故にか瞋悩は常に一切のために、その長短を求められるや。

この瞋悩は含容すること能わざるによるが故に、一切のためにその長短を求められる。

何が故にか瞋悩は常に衆人のために悩害せらるるや。この瞋悩は人を悩害するによって、人もまた悩害す。

まさに知るべし。瞋悩は九の大苦なることを。」

さらに弘法大師空海様は瞋りについて次のようにお説きになられている。

「身を割くとも忍ぶべし。
いかに況や罵声の句をや
畏るべし一瞋の報い
長時に懼れを免れざることを」

また、弘法大師空海様の著作、「秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)」の中で弘法大師空海様は次のようにお説きになられている。

「三途の苦は劫を経ても免れがたし。

如来の慈父この極苦を見てその因果を説きたもう。

悪の因果を説いてその極苦を抜き、善の因果を示してその極果を授く。」

真言宗開祖、弘法大師空海様の御影

(774年~835年)

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