倫理、道徳の実践を重んじたブッダ釈尊

老齢になって役に立たなくなった老人を遺棄するという現象は昔から汎世界的に見られるがブッダはその風潮に反対し父母をいたわることを説いている。

「世に母を敬うことは楽し。また父を敬うことは楽し。」

「母あるいは父を法によりて養う人あらば父母に仕えるそのことを以って、この世にてはもろもろの賢者がかれを賞賛す。

また死後(その功徳により)かれは天界にて楽しむ。」

「母と父とは梵天ともいわれ先師ともいわれる。

子らの供養すべきものにして、また子孫を愛する者なり。

されば実に賢者は飲食と衣服と床と塗身と沐浴と洗足とを以って父母に敬礼し尊敬せよ。」

「されば正しき善人は、恩を感じて恩を知り、昔の恩を思い起こして母と父を扶養す。

昔、恩を受けたるが如くにかれら(父母)に対して義務を果たす。

教えを護り、扶養して、家系を断たず、信仰あり、戒を保つ子は賞賛せらるべきなり。」

「われらは両親に養われたならば、かれらを養うべし。

かれらの為に為すべきことを為すべし。

家系を存続すべし。

財産相続を為すべし。

また祖霊に対して適当なる時々に供物を捧ぐべし。」

また、仏教経典「スッタニパータ」において仏陀は次のようにお説きになられている。

「老いて朽(く)ち衰(おとろ)えている母や父を養わないで、自らは豊かに暮らす人  これは破滅への門である。」

さらにまた、仏教経典 パーリ相応部経典(サンユッタ・二カーヤ)の中でブッダは次のように説かれている。

父母を養っているバラモンが尊師(仏陀釈尊)に次のように言った。

「ゴータマ(仏陀釈尊)さま。

わたくしは、きまりにしたがって食を求めます。

きまりにしたがって托鉢(たくはつ)して食を求めて、両親を養っています。

わたくしは、このようにしていますが、なすべきつとめを果たしているのでしょうか。」

尊師(仏陀釈尊)は次のように言った

「バラモンよ。たしかに、そなたは、このようにして、なすべきつとめを果たしているのです。

きまりにしたがって食を求め きまりにしたがって食を求めて両親を養っている人は、多くの功徳を生じます。

母または父を、ことわりにしたがって養う人は、両親に対するその奉仕によって、この世では。賢者がかれを称賛し、死後には天にあって楽しむ。」

その言葉を聞きバラモンは次のように言った。

「すばらしいことです。ゴータマさま。

すばらしいことです。ゴータマさま。

ゴータマさま、私を在俗(在家)信者として受け入れて下さい。

今日以後、命ある限り貴方様に帰依致します」

また、パーリ仏典ダンマパダやウダーナヴァㇽガの中でブッダは不傷害、非暴力の重要性について次のように説かれている。

「手むかうことなく罪咎(つみとが)のない人々に危害を加えるならば、次に挙げる十種類の場合のうちのどれかに速やかに出会うであろう。

1、激しい痛み

2、老衰

3、身体の傷害

4、重い病

5、乱心

6、国王からの災い

7、恐ろしい告げ口

8、親族の滅亡

9、財産の損失

10、その人の家を火が焼く

この愚か者は死後に地獄へ生まれる。」

また、パーリ仏典サンユッタ・二カーヤにおいて仏陀は物惜しみと分かち与える事についても次のようにお説きになられている。

「この世でもの惜しみをし、吝嗇(りんしょく)、ケチで乞う者をののしり退け他人が与えようとするのを妨げる人々、かれらは地獄、畜生の胎内、閻魔の世界に生まれる。

もし人間に生まれても貧窮貧乏の家に生まれる。

そこでは衣服、食物、快楽、遊戯を得る事が難しい。

愚かな者達はそれを来世で得ようと望むがかれらはそれが得られない。

現世ではこの報いがあり死後には悪いところに落ちる」

「この世において人たる身を得て気前よく分かち与え、物惜しみをしない人々がブッダの真理の教えとに対し信仰心があり、修行者の集いに対して熱烈な尊敬心をもっているならばかれらは天界に生まれてそこで輝く。

もし人間の状態になっても富裕な家に生まれる。

そこでは衣服、食物、快楽、遊戯が労せずして手に入る。

他人の蓄えた財物を他化自在天のように喜び楽しむ。

現世ではこの報いがあり死後には善いところに生まれる。」

さらにまた、仏陀釈尊はパーリ仏典の律蔵経典、増一阿含経 第四十巻において看護について次のようにお説きになられている。

「修行僧らよ。我(仏陀釈尊)に仕(つか)えようと思う者は病者を看病せよ。」

「たとえ我(仏陀釈尊)および過去の諸仏に供養することあろうとも、我(仏陀釈尊)に施す福徳と、病(人)を看る、看病する(福徳)とは、異なること無し」

また、仏陀釈尊自身も病人の看病、看護に直接従事された事が説かれている。

さらに、律部経典の梵網経において看病を八福田の第一にあげている。

つまり仏教において病者への看護、看病がいかに重視されているかが分かる。

また、仏典 雑阿含経第四十巻において、七種受という事についてブッダは次のように説かれている。

ある日仏様(お釈迦様)はもし七種受をもつものは天帝釈(良い世界又よい所)のもとに生まれ変わる事ができると説かれた

七種受とは

1 父母を供養する。
2 家の尊重に供養する
3 柔和で優しい謙遜の言葉、態度を取る
4 荒々しい言葉を離れる
5 両舌を離れる
6 ケチな心をやめる
7 真実の言葉を言う

参考文献

「ブッダのことば スッタニパータ 中村元訳 岩波文庫」

「ブッダの真理のことば 感興のことば 中村元訳 岩波書店」

「ブッダ 神々との対話 サンユッタ・二カーヤⅠ 中村元訳 岩波文庫」

「ブッダ 悪魔との対話 サンユッタ・二カーヤⅡ 中村元訳 岩波文庫」

「宗教における思索と実践 中村元著 サンガ文庫」

「原始仏教の社会思想 中村元撰集 第十八巻 春秋社」

 

インド哲学、仏教学の世界的権威

中村元(なかむらはじめ)博士





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