「不妄語戒(ふもうごかい)」を考える。

日本のことわざに「正直者(しょうじきもの)の頭(こうべ)に神が宿る」ということわざがある。

また、仏典『スッタニ・パータ」の中でブッダ(真理に目覚めた者)は次のように説かれている。

「嘘(うそ)を言うものは地獄(じごく)に堕ちる」
(スッタニ・パータ 六六一詩)(書籍 『ブッダのことば 中村元訳 岩波文庫』 146頁参照)

また、仏教の戒律に「不妄語戒(ふもうごかい)」という戒律がある。

つまり、うそをついてはいけないという戒律がある。

仏教と類似性が強いジャイナ教にも不妄語戒という戒律がある。

インド哲学の世界的権威、中村元博士(1912年~1999年)は自身の著作『思想の自由とジャイナ教 中村元著 春秋社』の中で、ジャイナ教の信者の中に商人が多く、また、ジャイナ教の戒律、不妄語戒を遵守(じゅんしゅ)している方が多く、商売においても、ほとんどウソをついたり、人をだましたりしないので商売上においてお客さんや取引先の方からの信用があるので商売上成功している方が多いと著書の中で書かれている。

さらにまた、中村元博士は自身の著作『ブッダのことば 中村元訳 岩波文庫』の巻末(あとがき(解説))の中で次のように解説されている。

「仏典『スッタニ・パータ』は仏教の開祖であるゴータマ・ブッダ(釈尊)を歴史的人物として把捉するとき、その生き生きとしたすがたに最も近く迫りうる書  少なくともそのうちの一つは『スッタニ・パータ』であると言っても過言ではないであろう。

 本書の題名『ブッダのことば』は『スッタニ・パータ』(Sutta Nipāta)の訳である。

「スッタ」とは「たていと」「経」の意味であり、「二パータ」は集成の意味である。この書のパーリ分注釈書のうちにはスッタに関する種々の解釈を挙げているが、ともかくブッダが明らかにした永遠の真理を伝えることばであることをめざしている。
 
南方アジアの仏教諸国に伝わった経典は五種に分かれ、その第五のものを『グッタカ・二カーヤ』(Khuddaka Nikāya,「小部」と訳す)というが、それがさらに十五に分かれているうちの第五に相当する。

いまここに訳出した『ブッダのことば(スッタニパータ)』は現代の学問的研究の示すところによると、仏教の多数の諸聖典のうちでも、最も古いものであり、歴史的人物としてのゴータマ・ブッダ(釈尊)のことばに最も近い詩句を集成した一つの聖典である。

シナ(中国)・日本の仏教にはほとんど知られなかったが、学問的には重要である。

これによって、われわれはゴータマ・ブッダその人あるいは最初期の仏教に近づきうる一つの通路をもつからである。」
(書籍 『ブッダのことば 中村元訳 岩波文庫』 433頁~434頁参照)

 

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恵心僧都源信の著作、「往生要集」が説く輪廻転生の実態

平安時代の天台宗の学僧、恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)は多くの仏典を引用して書かれた自身の著作「往生要集(おうじょうようしゅう)」において、無量無数の生き物たちが無量無数の生まれ変わりをし、また、多くの生き物たち(仏教用語では生き物、生命体のことを衆生(しゅじょう)という)が死後に、人間に生まれ変わっていくよりも地獄界、餓鬼界、畜生界などの悲惨な生命体に生まれ変わっていくことの方が圧倒的に多いことが説かれている。

例えば、恵心僧都源信は往生要集の中で次のように説かれている。

「我等、いまだかつて道を修せざりしが故に、徒(いたずら)に無辺劫を歴たり。

今もし勤修せずば未来もまた然るべし。

かくの如く無量生死の中に、人身を得ること甚だ難し。

たとひ人身を得とも、諸根(※1)を具することまた難し。

たとひ諸根を具すとも、仏教に遭ふことまた難し。

たとひ仏教に遭ふとも、信心を生ずることまた難し。

故に大経(涅槃経)に云く、

人趣(にんしゅ)(※2)に生るる者は爪の上の土の如し。

三途(さんず)(※3)に堕つる者は十方の土の如し。」と。

(※1) 諸根とはものの機能とか能力、機関などの意を包括した言葉で、草木の根のように、感覚を起こさせる五官を眼根(げんこん)、耳根(にこん)、鼻根、舌根、身根といい、心を意根として六根と呼ぶ。その他、女根(にょこん)、男根(なんこん)、命根、楽根、苦根、喜根、憂根をはじめ、さとりに導くものをも信根、慧根などと数える。普通、二十二根という。

(※2)人趣(にんしゅ) 人間界、人間に生まれること。

(※3)三途(さんず)  三途の川(さんずのかわ)、三瀬川(みつせがわ)ともいう。仏教の教えでは、多くの衆生(生き物)は死後、三途の川に流され、その流れ生まれ行く行先は地獄界、餓鬼界、畜生界とされる。

恵心僧都源信(西暦942年~西暦1017年)

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