宗教家や修行者の方々など、様々な宗教的修行をされている方々の中に、よく断眠行、夜中、徹夜で様々な行をされる方々がおられるが、これなどもあまり、度を過ぎると健康上、良くないように思われる。
また、日本の風習では、12月31日の大みそか、夜半から翌朝の元旦の朝方にかけて大勢の参拝者の方々が夜半、朝方まで寝ないで、様々な神社、仏閣をお詣りする風習があるが、これなども健康上の観点から考えるとあまり好ましくないように思える。
最近、発行されている睡眠に関する書籍において次のような内容が書かれている。
「眠りは単なる体や脳の機能停止だけの働きではない。
眠りは「サボり」と考えるような睡眠をネガティブ、マイナスに捉える方々でも、眠ることで回復することは疑わないであろう。
眠りが単なる機能停止ならば、なにも起こらない、回復もしない。
睡眠は体や脳の回復とともに、様々なメンテナンスの機能を持ち合わせている。
「寝る子は育つ。」「風邪は寝て治す。」これも睡眠の機能を端的に表している。
「寝る。」「眠る。」つまり活動を減らすことでエネルギーの消費を抑え、その分のエネルギーを成長や免疫活性化に充ててる。」
「限られたエネルギーの再分配の仕組みである脳は実に様々な働きをするが、その結果、大量の老廃物が生まれる。
それらは全て排除しなければならない。
老廃物を取り除く事で、文字通り、新たな成長や発達の余地が生まれるからだ。
死んだ細胞の除去やリサイクル、有害物質の排除、老廃物の排出は脳を機能するうえで絶対に欠かせない。
眠っている間の老廃物を除去する活動は目覚めている間の10倍以上老廃物を除去する活動が活発になるという。
目覚めているときの脳は学習や成長に勤め、脳の持ち主が活躍できるよう協力している。
ずっと動きっぱなしなので、たくさんの老廃物がたまっていくが、そのほとんどは睡眠が持つ修復の力で除去される。
例えば、自宅のごみを捨てるシステムがとどこおれば、家はあっという間に悲惨なことになる。
それと同じでように充分な睡眠をとらず、その老廃物を除去する働きがなければ脳内が大変なことになる。
具体的に言うと有害な老廃物を除去する事が無いことがアルツハイマー病を発症する根本的な原因の一つだと言われている。」
睡眠中は特に脳内の老廃物を排出する時間帯でもある。
充分な睡眠時間帯が取れないと脳の老廃物を除去する事が難しくなる。
充分な睡眠時間は我々に多くの利益をもたらすが睡眠不足は我々に多くの不利益をもたらす。
充分な睡眠時間を取る事は人間の健康を維持するには最も重要な事である。
特に、体全体の疲労を回復させるホルモン(疲労回復物質や成長ホルモン)などは全て睡眠中に最も分泌するしくみになっている。
また思春期の子供達にとって成長ホルモンは身長を伸ばすなど、思春期の二次性徴を促すホルモンとして有名です。
昔から「寝る子は育つ」ということわざがあります。
さらに睡眠は全身の細胞の修復と新陳代謝を促進し疲労を回復させるという大切な役割もあります。
また脳の疲れを取り、記憶力、集中力、ひらめき力、学習能力をアップする作用があります。
睡眠こそが最も強力な疲労回復の手段である。
逆に睡眠不足などが原因で体の免疫機能が低下し、風邪や感染症にかかりやすくなる。
ガンのリスクが高まる。
高血圧、糖尿病、脳梗塞、心臓病などの恐ろしい病気の原因になる。
また認知症などの原因になると考えられている。」
「マンガ家の水木しげる氏(1922年~2015年)(93歳没)は、ご自身の短編漫画「睡眠のチカラ」の中で
「私は徹夜2日目」「僕は徹夜3日目」と徹夜自慢をするマンガ家の手塚治虫氏と石ノ森章太郎氏に対して
「あんたたち、睡眠を馬鹿にしてはいけません。眠っている時間分だけ長生きするんです。
幸せなんかも睡眠力から湧いてくる。睡眠力こそが、すべての源(みなもと)です。」
と説教するシーンが描かれています。
手塚治虫氏は61歳で胃ガンによって亡くなられています。睡眠時間はつねに3~4時間で、漫画の締め切りが迫ると連続して徹夜することもあったといいます。
石ノ森章太郎氏も同じく血液のガンであるリンパ腫による心不全が原因でわずか60歳で亡くなっています。
睡眠時間は3時間ほどしか取らず、何本も連載を抱えハードワークをこなしていたそうです。
世間では「睡眠時間を削って仕事に邁進(まいしん)することが成功の道だ。」という風潮がありますが、
その結果、短命に終わる人が多いのも紛れもない事実であります。」
「過去に起きたチェルノブイリ原子力発電所の原発事故、
原始炉融解直前までいったスリーマイル島の事故、
大規模な環境破壊につながった石油輸送船エクソン・ヴァルディーズ号の石油流出事故、
そしてアメリカのスペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故、
これらの事故はいずれも眠りが足りない人々によるミスが原因で起こったものだとされる。
睡眠不足は人の頭脳の働きや反応を鈍らせ事故を起こし易くする。
さらに眠りが少な過ぎると人は急死することもあれば健康を損なう。
さらに睡眠不足は人の気分を落ち込ませ深刻な鬱病(うつびょう)を引き起こす。また感情のコントロールが効きにくくなり怒り易くなる。
全米睡眠財団の発行する機関誌(Sleep Health)の発表によると20代~50代の推奨睡眠時間は7時間~9時間と発表されている。」
ところで、仏教の開祖であり、さとりを開かれたお方であるお釈迦さまは昼寝を日常的にされていた記録がある。
仏教学の世界的権威、今は亡き、中村元博士は仏教教団 阿含宗の機関紙「月刊アーガマ42号」においてお釈迦様が食事の後よく昼寝をされたことを微笑ましく指摘されている。
食後の休息をパーリ聖典で昼住(ちゅうじゅう)という。
この習慣は現在の東南アジアの僧院でよく見かける。
当時の厳格な修行者からすると昼寝をする事はダラシのない事であり、怠惰なふるまいであったと考えられた。
当然、釈尊に対しても次のような非難が向けられていた。
ある日、サッチャカという修行者が釈尊に次のように言った。
「ゴータマ(釈尊)よ。あなたは昼寝をする者である事を認識しているのですか。」
釈尊は、次のように答えた。
「私は托鉢から帰ってきて食事をし、その後、大衣を四つ折りにし、その上に、右脇を横たえ、自らの心の動きを観察しながら眠りに入る事があります。
だから自分が昼寝をする者である事をよく認識していますよ。」
サッチャカが言った。
「ゴータマ(釈尊)よ。修行者やバラモンのある者は迷っているから、そんな事を語るのです。」
釈尊は静かにこう答えた。
「食後の昼寝をした、しないだけで、迷っているとか、迷っていないだとか、言えませんよ。」
参考文献
「眠りをめぐるミステリー 睡眠の不思議から脳を読み解く 櫻井 武 著 NHK出版新書」
「月刊 アーガマ42号 阿含宗総本山出版局」
「一流の人はなぜ眠りが深いのか 奥田 弘美 著 知的生きかた文庫」
「Sleep(最高の身体と脳を作る技術)ショーン・スチーブンソン著 花塚 恵 訳 ダイヤモンド社」
「睡眠不足は危険がいっぱい スタンレー・コレン著 木村 博江 訳 文藝春秋」