弘法大師空海様が説く十善戒について

仏教には十善戒という戒律が存在する。

すなわち、

①不殺生戒(ふせっしょうかい)、

②不偸盗戒(ふちゅうとんかい)、

③不邪淫戒(ふじゃいんかい)、

④不妄語戒(ふもうごかい)、

⑤不両舌戒(ふりょうぜつかい)、

⑥不悪口戒(ふあっくかい)、

⑦不綺語戒(ふきごかい)、

⑧不貪欲戒(ふとんよくかい)、

⑨不瞋恚戒(ふしんにかい)、

⑩不邪見戒(ふじゃけんかい)

という十種類の戒律がある。

真言密教の開祖である弘法大師空海様は晩年の著作『秘密曼荼羅十住心論(ひみつまんだらじゅうじゅうしんろん)』の中でこの十の戒律、すなわち十善戒について次のようにお説きになられている。

「次に十善を修することを明かす。

・・・・中略・・・・

殺と怨恨(おんごん)とを離れて利慈を生ずれば端正なり長命なり諸天護(まも)る。

盗まず知足にして衆生に施せば資材壊(え)せず天上に生ず。

邪淫を遠離(おんり)して染心(ぜんしん)なければ自妻に知足す

況(いわ)んや他女をや。

所有の妻妾侵奪(しんだつ)せず。

これ円寂の器として生死を出ず。

妄語せざれば常に実言なり。

一切みな信じて供(ぐ)すること王の如し。

両舌語を離れて離間なければ親疎堅固にして怨の破することなし。

もろもろの悪口を離れて柔軟の語なれば勝妙の色を得て人みな慰(やす)んず。

道義の語を思いて綺語(きご)を離るれば現身にすなわち諸人の敬を得’(う)。

他の財を貪せず心願わざれば

現には珠宝を得て後には天に生ず。

瞋(しん)を離れて慈(じ)を生ずれば一切に愛せらる。

輪王の七宝これによりて得(う)。

八邪見を離れて正道に住するは

これ菩薩の人なり煩悩を断ず。

かくの如くの十善の上中下は粟散(ぞくさん)と輪王と三乗との因なり。

「華厳経」にいわく、「十善業道は、人天の因及び有頂の因なり。」

すまわち、

「殺生と怨みとを離れて人々のために慈(いつく)しみを生ずれば端正にして長寿であり、神々に守護される。

盗まず、足るを知って人々に施せば物質・財産がなくならずに天上界に生まれる。

異性に対する邪(よこし)まな行為(邪淫)を離れて煩悩の心がなければ自分の妻に満足するから、ましてや他の婦人に対して煩悩の心が起ころうか

自分の妻妾をうばわれることがない。

これはさとり(円寂)の器(うつわ)にして迷い(生死)を出ることである。

嘘(うそ)をつかない者は常(つね)に真実(しんじつ)を語る。

すべての人々はみな信じてものを供(そな)えることは王のようである。

二枚舌を離れて人々を仲たがいさせることがなければ親しい人とも、疎(うと)い人とも関係が確かで、怨(うら)みによって破られることがない。

もろもろの悪口を離れてやさしい言葉で語れば勝れて妙なる姿かたちを得て人はみな安らかである

理にかなった言葉を心がけて、飾った言葉を離れるならばこの身にすなわちもろもろの人の尊敬を得る。

他人の財産を貪らず、心に願わなければ現世に宝珠を得て、後世に天に生まれる。

怒りを離れて慈(いつく)しみを生ずれば、すべての人々に愛され転輪聖王(てんりんじょうおう)の七宝をこれによって得る。

八つの邪まな見解(八邪見)を離れて正しい道にあるのはこれは菩薩の人、煩悩を断ったのである。

このような十善の上と中と下の部類は小国の王と転輪聖王と三乗(声聞乗(しょうもんじょう)・縁覚乗(えんがくじょう)・菩薩乗(ぼさつじょう)とのいずれかになるものである。」

華厳経にいう

「十善業道というのは、人間界と天界に生まれる原因であり、有頂天に生まれる原因となる。」

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