精進料理の健康効果についての法話(特に心臓病の予防効果について)

高野山や比叡山、永平寺などのお寺、宿坊に宿泊すると精進料理が出される事が多いが、そもそも精進料理とは動物性タンパク質を控えた料理、例えば肉や魚などの魚肉を使わず調理した料理である。

肉や魚を食べることは、その前提として牛や豚や魚などの命を絶つことになるので、仏教の思想、生き物を殺すなという戒律、いわゆる不殺生戒の観点から、また、動物たちに対する思いやり、慈悲の観点から、出来るだけ動物などの生物の殺生を行わずに調理できる料理が古来から考案されてきた。

ところで、その精進料理の健康効果はどうだろうかと考えたところ、動物性の肉食を控えることは心臓病や各種の成人病予防効果があると思われる。

その根拠の一環として次の書物を紹介したい。

アメリカの著名な栄養学者、ジーン・カーパー氏は著書「食事で治す本 下 ジーン・カーパー著 ハルキ文庫」の中で心臓病と動物性脂肪の摂取との因果関係について次のように述べておられる。

「動物性の飽和脂肪は避けるべきだ。それは心臓において真の悪魔である。それは血中コレステロールを上げ、血液の粘度を高めてくっつきやすくさせ、血栓溶解のメカニズムを抑圧して動脈を破壊し、動脈を詰まらせ、狭窄(きょうさく)させる。

世界で動物性脂肪を最も多くとっている地域は、冠状動脈性心臓病の最高率を示している。動物性脂肪の摂取の増加が心臓病の増加を招いている。

1990年の世界保健機構(WHO)の報告は、摂取カロリーに占める飽和脂肪の比率が3%~10%のところでは心臓病が少ないことを明らかにしている。飽和脂肪の摂取がそれ以上になると、顕著な進行性の致命的心臓病を引き起こすのだ。

アメリカと西欧諸国では、飽和脂肪が摂取カロリーの15%~なんと20%を占めているところが多い。

動物性脂肪をとらないようにすることで、あなたのミステークは逆転でき、動脈を詰まらせないように出来る。数件の研究が動物性脂肪を制限すると、動脈への脂質の(たいせき)とその成長が阻(はば)まれ、動脈の詰まるのが防がれ、脂質の堆積物が縮小させすることを明らかにしている。

南カリフォルニア医科大学のデービット・H・ブランケンホーン医博は、低飽和脂肪食(摂取カロリーに占める比率が5%)で冠状動脈にバイパス手術を受けた患者に良い結果をもたらしている。

「たんに高脂肪乳製品を低脂肪乳製品に切り替えるだけで」大多数の人が動脈を動物性脂肪による破壊から守ることができると、医博はいっている。

もしも、私が心臓病のリスクを下げる方法をただ一つだけいえといわれたら、動物性食品、とくに動物性脂肪の摂取を減らして、その代わりに炭水化物複合体━穀類、果物、野菜を多く食べるようすすめる。

(アーネスト・シェファー医博、タフト大学の廊下についてのアメリカ農務省人間栄養リサーチ・センター)」

と述べている。

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パーリ仏典『テーリー・ガーター』より女人禁制、男尊女卑思想の是非について考える

和歌山県にある真言密教の聖地である高野山は、かつて、女人禁制の地として女性の参拝は明治時代まで出来ず、高野山の入り口付近にある女人堂までしかお詣りが出来なかった過去がある。

また、男尊女卑、つまり、男性が尊く女性は卑しいという思想は仏教思想から来ているとも言われてきた。

お釈迦様が使用していた言語、パーリ語で書かれたお経で、紀元前3世紀頃から紀元前1世紀頃、スリランカに伝えられたお経に『テーリー・ガーター』というお経がある。

この『テーリー・ガーター』というお経は、お釈迦様の弟子である女性修行者たちが修業し悟りを開くことが出来た後に語られた体験談などが記されている。

パーリ語で書かれた『テーリー・ガーター』の原文と日本語での解説が共に掲載された書籍「パーリ文『テーリー・ガーター』翻訳語彙典 植木雅俊著 法蔵館」という書籍がある。

その書籍の著者、植木雅俊博士によると、その『テーリー・ガーター』というお経は日本や中国、朝鮮などの北伝仏教には伝えられなかった。という。

また、この書籍の前文の解説で次にように書かれている。

「女性であることが一体、何の妨げをなすのでしょうか」。

女性差別の社会で釈尊と出会い、自己の尊さに目覚めた尼僧たちの赤裸々な体験談。

「女性差別の著しい古代インド社会にあって苛まれていた女性たちが、釈尊と出会って、人間としてあるべき“普遍的真理”(dhamma、法)を覚知し、真の自己に目覚めて人格の完成を果たすとともに、自己の尊さに目覚めて溌剌とした生き方に蘇生していった体験が赤裸々につづられている。

その女性たちが、異口同音に「私は解脱しました」「私は覚りました」「私はブッダの教えをなし遂げました」「私の心は安らいでいます」と誇りをもって語っているのである。……

後世にゆがめられた仏教の女性観を正し、歴史的人物としての釈尊の女性観を知る上で、『テーリー・ガーター』は欠かすことのできない重要な文献であることが理解されよう。」

と著者の植木博士は説かれている。

もし、この『テーリー・ガーター』が千数百年前の日本の仏教伝来の際に伝えられていたならば高野山の女人禁制や昔から一部で言われてきた男尊女卑という思想は、ひょっとするとなかったのではないかと思われるほど貴重なお経であると思われる。

また、仏教を真に理解、解読しようとするならば、お釈迦様が実際に使用されていたパーリ語で仏典を研究しなければならないと思われる。

この書籍「パーリ文『テーリー・ガーター』翻訳語彙典 植木雅俊著 法蔵館」はパーリ語と日本語の解説が併記されており、500頁以上の大部の書物であり、比較的高価な書物ではあるがパーリ語の学習には最適のテキスト、最適な参考書であると思われる。

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釈尊が護摩を禁止、否定されていたのではないか?と思われる阿含経、パーリ経典のお経についての法話

護摩(ごま)、いわゆる、密教系の寺院などにおいて、佛菩薩像、明王像、仏舎利塔などの前に護摩壇を設置し、その護摩壇上に火を焚き、その火で佛菩薩やその他、諸精霊を供養する儀式、法要の事を意味する。

また、密教において護摩は修行法の一部として定義されているが、仏教の開祖である釈尊は護摩についてどのように考えていたか、どのような見解をもたれていたのかが気になる。

私は、今まで、仏跡、仏画など多くの仏画を見てきたが、お釈迦様が護摩を焚いている仏画を一度も見たことがなく、お釈迦様が護摩を焚いたというお経を読んだことは寡聞にして一度もない。

ところで、書籍「ブッダ 悪魔との対話 中村元著 岩波文庫」及び書籍「月間アーガマ50号 阿含宗総本山出版局」においてインド哲学及び仏教学の世界的権威である今は亡き中村元博士がパーリ仏典サンユッタ・二カーヤや漢訳仏典『雑阿含経 四十四巻七』(大正新修大蔵経2巻 阿含部下 大蔵出版社)(320頁~321頁)を引用し、釈尊と事火外道との対話を紹介している。

事火外道とは火を祀り、火を拝み崇拝する宗教、ゾロアスター教などの火を祀る宗教などを指すが、一般的に、外道とは悪者を意味する言葉と世間一般では考えられているが、仏教では、いわゆる仏教の観点からすると、仏教以外の宗教を全て外道と呼ぶ、あくまで仏教側から見た呼び名である。

釈尊は、その事火外道の行者に対して、火を拝み、火を祀る護摩を否定されていると思われるようなお経が紹介されている。

内容は以下の通り。

『尊師(ブッダ)は事火外道の行者に曰はく、

「バラモンよ。木片を焼いたら浄らかさが得られると考えるな。

それは単に外側に関することであるからである。

外的なことによって清浄が得られると考える人は、

実は浄らかさを得ることができない。

と真理に熟達した人々は語る。

バラモンよ。わたしは(外的に木片を焼くことをやめて)

内面的に光輝を燃焼させる。

永遠の火をともし、常に心を静かに統一していて、

敬わるべき人として、わたくしは清浄行を実践する。

バラモンよ。そなたの慢心は重檐(ちょうえん)である。

怒りは煙であり、虚言は灰である。

舌は木杓であり、心臓は(供犠のための)光炎の場所である。

よく自己を調練した人が人間の光輝である。

バラモンよ。戒しめに安住している人は法の湖である。

濁り無く、常に立派な人々から賞賛されている。

知識に精通している人々はそこで水浴するのである。

肢体がまつわられることの無い人々は彼岸に渡る。

真実と法と自制と清浄行、

これは中(道)に依るものであり、ブラフマンを体得する。

バラモンよ

善にして真直ぐな人々を敬え。

その人を、わたくしは(法に従っている人)であると説く。』

(書籍「ブッダ 悪魔との対話 中村元著 岩波文庫」147頁参照。

書籍『月刊アーガマ50号 (昭和59年出版) 阿含宗総本山出版局』 24頁~25頁参照。)

このように、お釈迦様が護摩を実際に否定されているような見解をもっていた事を考えると、日本の仏教寺院、特に密教系寺院において古来から現在に至るまで、また現在もなお、護摩修法が日常的に修され続けていることを鑑みると、何か考えさせられるものがある。

            釈尊 初転法輪像

書籍『大正新修大蔵経二巻 阿含部下 大蔵出版社』320頁~321頁 参照。

インド哲学及び仏教学の

世界的権威   中村元博士